家族で話せる相続の伝え方――遺言書・医療の意思表示まで【後編】

行政書士わかば事務所 行政書士 山田恭子 × FPofficeつむぎ 田中景子 セッショントーク

前編では、行政書士わかば事務所の山田恭子さん日なぜ元気なうちに相続の話をすべきか、そして実家・財産目録・保険といった「何を準備すべきか」を伺いました。
後編では、その先の一歩——家族だけでは話しにくいことをどう乗り越えるか、そして遺言書を残しておくべき具体的なケース、お金だけではない終末期・医療の意思表示について、引き続きお二人に伺います。

家族だけでは話せない。中立の第三者が入る価値

田中:相続について親が元気なうちに話しておくべきだと言うことはわかりました。でもいざ、「親と話をするぞ」と思っても、なかなか話しにくいですよね。

山田:そうですね。相談をお受けする時には「家族と率直に話していいんですよ」とお客様にお伝えするんですが、自分がその立場となると、いろんな感情があってなかなか難しい。当事者になったことがあるからこそ、それはすごくわかります。

田中:私もファイナンシャルプランナーという仕事をしているので、両親からお金の相談を受けるんですよ。だからお金のことは結構知っている。だけど、それを兄弟とシェアするかというと全然しないし、シェアしちゃいけない気もする。

山田:そうですよね。親に対する思いとか「あの時お母さんはこれを私にはしてくれなかった」とか、兄弟間だとそういう感情が出てきてしまいがちです。だからFPにしろ行政書士にしろ、第三者である専門家が間に入った方が意外と話せるんです。中立な人間としてそこにいられる良さもあるのかなと思います。

田中:それは本当にあると思います。「相続について話さなければならない」という気持ちは親も子も持っているけど、直接だと話しにくい。きっかけがあって第三者がいると話せますよね。

山田:それが「お父さんが倒れた」みたいな万が一のタイミングじゃなくて、普通の時に「そういえば」という感じで話せたら、どんなにいいかと思います。

遺言書を残しておいた方がいい3つのケース

田中:エンディングノートではできない、遺言書をきちんと残しておいたほうがいいケースがあれば教えてほしいです。

山田:遺言書は「財産を分ける」といった法的な効力を持たせるためのもの。エンディングノートは、どこの口座に証券を持っているとか、自分の人生を整理しながら子どもに残す、お役立ちノートのようなものですね。遺言は、自分が亡くなったときに初めて効力を発揮するものなんです。

田中:法的効力があるかどうかが、いちばん大きな違いなんですね。

山田:そうです。ケースとしてまず挙がるのが、相続人同士が疎遠だったり、面識がなかったりする場合。仲良く話せない兄弟がいるとか、自分の親が再婚だったら、前の結婚相手との子どもと面識がなかったとか。
話し合って仲良く分けましょうとはいきません。自分の相続人は誰かな…と考えてみていただいて、相続人同士で連絡を取り合って決めるのが現実的でないと思うなら、その事情も加味して遺言書を残しておくと、自分が亡くなった後の道筋が立ちます。
もう一つは、子どものいない夫婦。配偶者は必ず相続人になるんですけど、配偶者だけじゃない。亡くなった方の親もしくは兄弟にも、法定相続分として遺産が分けられます。遺言を残していない場合、「不動産も預金も全部配偶者のもの」とはできないことになります。

田中:子どものいない夫婦で、たとえば夫が亡くなったケースだとどうなりますか?

山田:まず妻は相続人になりますね。さらに夫の親が生きていれば親も相続人になり、親が亡くなっている場合は夫の兄弟が相続人になります。夫の兄弟と分割する場合、4分の3が妻、4分の1が兄弟ということになります。土地と建物は妻が相続して、預金は兄弟のほうへ回る…なんてことが起こってしまうのです。

田中:それって遺留分の話ですか?

山田:いえ、法定相続分です。兄弟には遺留分がないんです。ですので、生前に夫が「全財産を妻に残す」と遺言に書いておけば、妻が全財産を受け取れます。遺言がないと、法定相続分どおり4分の3までしか妻に残せない。だから「遺言書を作りましょう」という、けっこうありがちなケースですね。

田中:遺留分はないということは、法定相続分はあったとしても遺言ですべて配偶者に相続してほしいと残しておけばそのように実行できる可能性が高いということですよね。まとめると、

  1. 再婚で前の配偶者との間に子どもがいる・相続人同士が疎遠・面識がないのケース
  2. 子どものいない夫婦

この2つに当てはまる方は、遺言を作っておくと相続がずいぶんスムーズになる。エンディングノートではできない役割ですね。

山田:そうなんです。エンディングノートに全財産の分与を記載しても、法的な効力はありませんから。

田中:特殊なケースじゃなくても、「親がこういうふうに財産を相続してほしい」と意思表示してくれていることは、子どもにとってもありがたいですよね。兄弟間で変な誤解を持ってしまうより、親が決めてくれたほうが揉めない気がします。

お金だけじゃない――終末期・医療の意思表示

田中:ここまでお金の話が続きましたけど、相続の準備ってそれだけではないですよね。

山田:少し話がずれるんですけど、最後にどんな医療を受けたいか、というのもあります。うちの父は昔から「絶対に延命治療はするな」と言っています。
父の場合は書面にはしていないのですが、もし「延命治療しますか?」と判断を迫られた時に「父は望まない。」と家族みんなが分かっているので、辛くても「父が決めたことだから、父の人生だからいいんだよ」と言えるように感じています。
しかし、そういった共通認識がなく、万が一で決断を迫られた時に残される家族で決めてしまうと、「あの時、延命治療をしてあげていたら」とずっと後悔し続けてしまうんですよね。例えば「胃ろうをしてあげれば、あとちょっと生きられたんじゃないか」とかって。
そういう後悔をさせないためにも、医療的な処置の意思表示ってすごく重要で、「尊厳死宣言公正証書」といういものも作成できます。この書面があって医師に提示できると、現場でもかなりの確率で尊重せいてもらえると分かってきています。
このような意思表示の大切さは相続も同じで、親が「こうしたい」と伝えてくれていれば、子どもたちは「これがお母さんの意思だもんね」と、尊重する形で受け入れられる。ストレスのない幸せな相続になると思うんです。

田中:本当にそうですね。「もしそういう状態になったら胃ろうを受けたいんです」と言っている方に、あまりあったことがありません。(批判しているわけではありません)
でもこれだけ胃ろうをしている人が世の中にたくさんいるのは、突然の判断を家族が強いられた時に、「胃ろうをしない(延命措置をしない)」という選択肢を選ぶのが難しい、という事実があるからだと思うんです。だからこそ、その意思表示がすごく大事ですよね。

山田:医師の方に「父はこう言っているので」と示せる公正証書があると、全然違うと思うんです。財産でも「この時計はあなたにもらってほしい」とかあるじゃないですか。その延長で「この家はどうしてほしい」とか、話せたら一番いいんじゃないかなと。
エンディングノートは、「私ってこういう人間だったな」と気持ちがまとまって、その結果「遺言書を残そう」と思えるかもしれない。エンディングノートは市販のものもあるので、一度人生を振り返ってみるのは、きっかけとしてすごくいいかもしれないですね。

家族で相続を話すときの2つのコツ

山田:最後に、相続の話を家族でするときに大切なポイントを二つ、お伝えします。一つ目は、話し方です。親って、いつまで経っても「子どもの親」だと思うんですよね。
なので、「もう年寄りなんだから言うこと聞きなさい」と言われるのは、すごく嫌だと思うんです。私も自分が老いたときにそんなこと言われても受け入れられないです…。
自分の親が60代・70代で老いを感じてきても、押さえつけるような伝え方をしては絶対に話を聞いてくれないと思います。
いつまでも親として敬って、子どもとしてお願いするスタンスで、「実家をどうするか、ちょっと心配だから気持ちを聞かせてくれる?」と聞いてみるのがいいのかなと思います。

田中:本当にそうですね。その視点はなかったです。

山田:二つ目は、兄弟間の無駄ないざこざを避けるために、兄弟と一緒に親と話す場をつくること。私と親だけで話すと、「あそこで密談があった」なんて言われたら嫌なので、「家族で話さない?」って。
勇気はいるかもしれないけど、全員で話すことで、意外と「私はこう思う」「私はこう」って気持ちが出せたりするんです。又聞きで話がややこしくなることも往々にしてあるので、そこはお勧めしたいと思っています。

田中:家族会議ですね。

山田:ただ、その家族会議を招集するきっかけがない、というのが正直あると思います。私たちみたいなまだ30代の世代でも、エンディングノートを買ってみて、「自分でやってみたらこうだった」とシェアしたい、という感じで伝え始めてもよいかもしれませんね。相続の準備は、親が親らしいまま人生を締めくくるための、家族にできる贈り物かもしれません。

まとめ

相続の話は、家族だけで切り出そうとすると感情が邪魔をして難しくなりがちです。だからこそ、行政書士やFPといった第三者を挟むことが、話すきっかけになります。

遺言書は「①相続人同士が疎遠・面識がない」「②子どものいない夫婦」というケースで特に効力を発揮し、エンディングノートでは代替できない法的な力を持ちます。また、延命治療をはじめとする医療の意思表示も、家族の後悔を減らす大切な準備の一つです。

家族で話すときは、「親を敬い、子どもとしてお願いする」姿勢と、「兄弟そろって親と話す場をつくる」こと——この2つが、円満な相続への近道になります。

すべてを一度に整える必要はありません。まずはエンディングノートを一冊買ってみる、「実家、どうしたい?」と聞いてみる。その小さな一歩が、いつか訪れるお別れの日の後悔を減らします。

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